ゆっくりとさよならをとなえる

いざ、生きめやも/さよならの学者に、なりたい

かなしみと均衡(バランス)

なにがこんなにかなしいのかな。言葉にしてしまうと、やっと得た均衡が崩れてしまうようで、言わずにおく。と、苦しい。が、言葉にしても、その苦しみはどうにもならない。ただ黙って、私はひとりでないのになにかが致命的に欠落していて喪失していて、悲しくて、悲しいとも言えずになお愛しい。

例えば、しずかに鼻歌を歌って、町の雑踏の中、行きかう人は誰も聞いていないけれど、私のかすかな歌声はたしかにこのざわめきの一部をなしている。そういうかなしさやさびしさやある種の余裕。満ち足りながら影を追って、あなたはいない。

もうあの一人の部屋には帰りたくない、と帰り道で思う。もう一度会えるなら、砂の城のように倒れて彼の傍で眠りたい。

神様、もう一度、彼に会わせてください。もう一度だけ。