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ゆううつ日記

いざ、生きめやも/さよならの学者に、なりたい

しあわせになる、そのまえに

「もしもし」

「もしもし」

「あと少しで、この間から読んでいた本を読み終えるよ」

「それで?」

「幸せになるよ」

「うん、それで?なぜ、俺に電話を?」

「幸せになる、その前に、逃げ出してしまいたくなったから、あなたに逃げてるんだよ」

「本を読み終えるだけだよ、大げさな」

「けど、一冊読了するのって、そのくらいの衝撃が毎回あるんだよ。私はそのたびに、考えるんだよ。幸せになる、その前に、なにかやり残したこととか、気づかなかったこととかがなかったかなって」

「死ぬ瞬間?」

「似てるかもしれない。わからないけれど。どうして私はこうして読み終えることができたんだろう、って」

「蛇の道は蛇、砂漠の道はベドウィンさ」

「私は蛇でもベドウィンでもないよ」

「そのどちらでもないんだね」

「そう、ただの人、しかもとりえのない人なのに、どうして、って」

「どうしてって、なにが」

「どうして、私に一冊の本を読み終えられたか、どうしてこの本が私に与えられたか」

「あなたは見つけたんだよ、探したから、見つけた」

「べつに、探してなかった。あきらめてた、むしろ」

「私は探さない、見つけるのだ」

「そうだね」

「本があなたを求めてた」

「だといいな」