ゆっくりとさよならをとなえる

いざ、生きめやも/さよならの学者に、なりたい

さよなら、愛し君

彼が以前見せてくれた写真に写っていた幼い頃の彼を、時々思い出す。
「可愛いね」
「そうなんだ、俺可愛かったから上級生から気に入られてた」
というやりとりをした記憶がある。小学生の彼は本当に可愛くて、大人しい人懐っこい小動物のようだった。目が特に印象に残っている。可愛い。
青年になった彼にチャームポイントを訊くと、「目」と答えた。その時の彼の目は可愛くなかった。
またあの小さな彼の写真が見たい。小学生の彼は、スポーツブランドのカットソーを着ていた。この頃はまだ服装に無頓着だったんだな、と思った、彼も彼の母親も。今はなかなかおしゃれで、そうして年上の人妻を暇潰しに抱く。

元気ですか?

あなたがいなくても、普通に生きている私はまるで幻の中を生きている気分になることがあります、だしぬけに。けど、この疲労と汗ばんだ身体はまぎれもなく実体だとわかります。疲労しか現実を知覚させてくれない毎日を過ごしています。元気ですか?

ゆっくりとさよならをとなえる

私のこのブログは、言葉の死に場所か、言葉の堆積か、彼への手紙か。来月でお別れされてから一年になる。年上の人はあともう二年は忘れないだろうと言った。私もそれならそれでいいとむしろ安心した。一度真剣に愛した人の隙間は一生埋まらないものだろうと思う、これはわりと真面目に言っているのだが。
気配、幻、幽霊、影。どの言葉で彼を換言しようとしても、ピンとくるものでなく、ただ現象として、彼は今の私に不在として現前している。まぎれもない不在。退屈な昼下がりの明るい部屋の空虚に私は言葉をかけていて、独り言かもしれない、そこかしこに染み付いた彼の影を追いかける。そうしている私は何者だろう?愛の失格者か、流刑にあった唯一の罪人か、とりつかれた孤独な人間か。ばかみたいだな。あなたという二人称の文章なんて。

永遠の友情

付き合ってた時、永遠の友情を感じることもあって、そのことが私を孤独にしていた、ときっと彼は理解しないだろう。親切で礼儀正しかったけれど、情熱的であったり献身的であったということがなかった彼に、私はだんだん不信感を募らせていった。この先、もしまた出会ってやり直すことになったら、もう私は正気ではそれができないだろうな。傷つくのが怖いし、同じ繰り返しはもっと怖いし。

彼と友達になるのが一番楽だろうな。一度でいいから、訊きたいこと全部ぶつけてみたい。そうして納得のいくまで問い合わせたい。答えをききたい。

新しい服

昨日買った新しい服を今日着て、神社に出かけた。カフェにも行った。公園を8周歩いて、音楽を聴いた。ダイエットの成果がちょっとずつ出てきて、今朝は体重が1kg減っていた。腕時計は相変わらず時間が狂ったままだけど、明日、晴れるといいな。溜息ばかりでもつらくなるだけだから、オレンジジュースを飲んで、太陽を味わう。今の髪型の自分が一番好き。前髪が眉下くらい。面白い本を集中して読んでいる時間が至福。大好きな人に出会って、その人の傍で一生を終えたい、眠るようにこと切れる。好い。

もう戻ってこないうたかたの輝く過去が、宝石のようにきらっと光る。

セリフみたいな涙、似合わない

彼と過ごした過去の日々を思い出して横になっていた、これまでの時間のほとんどを。彼は人妻の元カノのもとへ肉体関係を求めて奔走したけれど、結局私より彼女が好きだったということだろう。彼女との恋愛で彼自身が得られなかったことや自分のひたむきな愛情の姿を私に転移して、彼はひっきょう私を傷つけたのでなく、彼自身を傷つけてはねつけたのだ。そうしないと前を向けない抜き差しならぬ状況だったんだろうと思う。早い話、私は彼に八つ当たりされたのである。

私の言いたかったセリフ、彼が全部奪って吐き捨てて消えていった。泣きそうだ。私は人に踏みつけられるマットなのかもしれないと思った。これまで出会った人たちに踏みつけられていくマット。人権もなく。両親をはじめとして、バイト先で出会ってきた嫌な人たち、弟、そして彼。

出会い損ない、出来損ない、再会はない

こんなにも疲れていて、思い通りにいかなくて、報われない。へとへとに疲れて、人間以上の正体を求められるのに、それ以上になれない情けなさを味わう。ヘドロの味がする。

駅に向かってくる特急に飛び込むのに数秒かかるかくらいで、自室のベランダから飛び降りるのも数秒だろう。シャープペンシルの先を善良なる先輩の眼に突き刺すのすら、瞬時のことで、私次第だ。私は先輩が善なるものであると確信すればするほど、抗いがたい衝動と戦う。私次第、この言葉が理性の頼りなさの換言だ。

来るものと去るものがあり、別れがあり、しばしば再会はない。

妄想リアル

syrup16g「リアル」をイライラしながら聴いていた。元彼が人妻の元カノのもとへ肉体関係を求めて奔走した時の心理がこれだったんだと思うと、聴きながらイライラしどおしだった。

リアルというタイトルだけど、この歌のどこにもリアルはない。あるのは心象=イマージュだけで、それと現実を近似させようと動く、一種の思春期性しか見当たらない。歌っている本人も「妄想リアル、もっとsoリアル」と歌っているくらいだから、それは間違いないだろう。彼はその時の自分の脳内にあふれる言葉を薙ぎ払う圧倒的なリアルが欲しかったんだろうと思う。それが人妻の元カノの肉体であり、自分の性欲を満たすということの容認だった。彼はまだ若い23歳の青年だから、不道徳も人生の勲章になる年代だ。この「リアル」という歌も、アドレッセンスに由来する不道徳を容認する歌になっている。道徳なんて、と吐き捨てる歌。というより、不道徳こそ今後の勲章になることさえ見越している歌。だから、「必死なのはかっこ悪くねえ、むしろその逆」であり、「感じられることすべてを喜びに変えろ」と言う。大人になったら絶対に許されない心象=イマージュと現実を近似させること。妄想がリアルを凌駕するのは、大人になればなにもかもが輝く過去になる思春期の特権である。

きっと彼はその時のことを悔恨や後悔という痛痒を一切感じず、我こそが道徳的小市民、という顔を天下にさらして堂々と生きていることだろうなと思う。私を傷つけたことも何一つ考えず、過ぎたことだから、あれもいい思い出、若いから、と。そう思うと、私が彼にしてきた一切の献身はなんだったんだろうな。私は一生、彼と出会って以来、報われることはないんだろうなと思った。

私=

ただ、彼と同じになりたかっただけなんだ。そうして彼を、そして自分自身をなによりも救いたかっただけ。ただそれだけなんだよ。同じになった、と思ったら、彼がいなくなった。

いまだに深く、なおも深く

帰り道や帰宅後自室でひとりきりになったことにふと気づいたときに、彼が入り込んできて、私をせつなくさせる。今朝の夢の暗示は私が彼をとても大事に想っているという意味だった。振り向いてくれなくなってあきらめるしかないしもうあきらめているはずなのに、なおも深く彼を大事に想うようになった。もう彼は私のもとに戻ってこないから、それはどんな意味を持つのか今の私にはまだわからない。もし、この先誰かと素敵な結婚をしても、彼のことは気になって煩悶するのだろうか?

本当に大事なら、今朝の夢みたいに、彼から性的なことを誘われても断るだろう。実際にそういう局面になったら、私はきっと断ろうと思う、なるかどうかわからないけれど。ならないとは思うけれど。私に別れを告げた後に、どうして彼は人妻の元カノと性関係になったんだろう。それがわからない。アバンチュールに興味ないといいつつ、アバンチュールの中でしか最善を尽くせない気の毒な青年だった。なにより、彼に社会的地歩もないのに、年上の妙齢の女性と誠実に付き合うというのが雲をつかむようなことなのであった。年上の女性なら結婚も視野にいれなきゃいけないはずなのに、そういうことに本気の人間なら、大学生の彼と付き合うなんて論外のはずだ。私?私はどうだったか。本気だったと思うけれど、かれにはそれがどうも伝わらなかったらしい。私が迫れば迫るほど、最初から影のように逃げていく人だったように思う。

気分が悪い別れ際だったし、嫌気がさしてもう二度と会わなくていいとも考えた。けれども、可能性の低さを思い知れば知るほど愛しさや夢が膨らんで、私は我を押し通そうとむきになってきた。夢がつぶされそうになればなるほど、かなえようと強気になるのが人間の性らしい。あるいは、恋愛のステージというのは、そういうものなのだろうか?芸能界のように、夢をとことんつぶされて、現実に塗り替えられるシビアさが恋愛にはないのかもしれない。それでなおも深く好いていくのであろうか。